各種ギターシンセの今後の展望

 そもそもギターシンセとは何かを振り返る。ギターシンセとは、ギターに搭載されたピックアップ(以下PU)からの電気信号を元に波形を変化させることで音色に特色を加えるエフェクターとは異なる。ギターシンセは基本的には次のうちどちらかを用いて、波形を変化させて得られる音とは程遠い音を発生させるものである。

 

  1. 専用のPUがギターシンセに周波数、ベロシティを専用のケーブルを用いてギターシンセに送信し、それに応じて音を発生するもの
  2. PUの電気信号からギターシンセが周波数、ベロシティを検知し、それに応じて音を発生するもの

1の場合、専用のPUが必須となるためそれを取り付ける加工が必要となるが、それらの多くが各弦に独立したPUを搭載していることもありトラッキング精度も良好である。それに加えて独立した特徴を活かして変則チューニングや各弦で発生させる音を変えることも可能である。

これに対して2の場合はフォン端子から出力される電気信号から音を判断するため、特別な装備を用いずに利用することができる。しかし6つの弦から発生した音を同時に評価する必要があるためトラッキング精度は1より低下する。

 2000年代頃に隆盛を見せていたギターシンセ界が現在ではギターエフェクターの中では下火になっている事実を残念ながら否定することはできない。ギターシンセ界では大手であるRoland社も、BOSSブランド含め以前は長くて4年に1度程度のペースでギターシンセ用規格であるGKに対応した機種を発表していたにも関わらず、近年ではGP10を発表した6年後にSY1000を発表する程度までペースが落ち着いているように思える。

 対照的であるものが、GKを用いないギターシンセである。これらはエフェクターとして多数発表されていることが特徴的である。ギターシンセを一種の飛び道具とし、エフェクターボードを構築するための一片として存在を確立させる方向へシフトしている。それと同時にフォン端子から出力された音をPCでリアルタイムMIDI変換するソフトウェアまで登場している。このソフトウェアにより出力されたMIDIデータをDAW上の音源プラグインに通せば擬似的なギターシンセになりうる。各社から往年の名シンセをモデリングしたものが多数開発されていることもあり、これを用いればむしろGKよりもギターシンセの名に似つかわしいように思える。

 ギターシンセとギター本体や専用のPUの関係は切り離せない。ギターシンセが生まれた当時から各弦に独立したPUを搭載するという概念があったが、初期はトラッキングエラーに悩まされていたようだ。その頃にはCASIOのMG-500のようなMIDIギターも登場していたが、これもやはりトラッキングエラーが課題であった。専用のPUを搭載したギターは進化も進み、Roland GK-3以降新機種が発表されていないもののエラーが少なく、非常に完成度の高いものに仕上がっているように思える。しかし課題は未だに存在する。外付けという性質上、PUの形式と搭載されたギターの個性に迎合しない衝突が発生し、ギターによってはエラーが発生する点であることだ。一部にはギターシンセの使用を前提に開発された、アルミ製の"EVO"というギターも存在するが、一般にはギターシンセを前提に開発されていない。この問題を克服するには外付けPUが多様性をより如実に醸し出すギターシーンに対応する必要があると考える。また専用PUと音源を繋ぐケーブルにも難がある。RolandはGKケーブルという呼称を用いているが、実際はDIN13ピンのケーブルと同じである。現在も入手可能であるが、販売店の少なさやDIN13ピンのパーツの希少性から入手はシールドケーブルに比べるとかなり難しい。それに関連してワイヤレス化が未だにされていないことも挙げられる。海外にはワイヤレス化するモジュールを作成した強者がいるらしいが、本家からの発表を強く願いたい。なぜならケーブル自体が太く取り回しが効きにくいからだ。GKを用いるプレイヤーの数から開発の厳しさが目に浮かぶが、ぜひ実現してほしいところだ。

 ギターシンセは前述のように、一般なギターから発生し得ない音を発生することからライブパフォーマンスとは非常に親和性が高い。しかしレコーディング時ではどうだろうか?AKAIEWIに代表されるウィンドシンセは、息の量でボリュームが変わるように管楽器特有のニュアンスがシンセに独特に反映されることから特徴をそのままレコーディングに生かすことができる。対してギターは撥音やトレモロやスライド奏法による連続的な音の変化、サスティナー・サスティニアックによるハーモニクスなどそれ特有の音の表現があるが、ほとんどが鍵盤で代替可能である。ライブパフォーマンスでギターシンセを用いているアーティストの用途を見てもキーボードの代替であるように思える。ギターシンセ隆盛時はパソコンの性能も低く、ギターシンセとPCの音の発生部分が独立している必要があった。PCの性能が格段に高くなった今ではその必要性は大幅に薄れている。そのためシンセのような音を発生させることはレコーディングには不向きであると考える。

 ここまで私が考えるギターシンセの現状や問題を述べたが、これらを踏まえると今後はギターの高品位モデリングに舵を切るべきなのではないかと私は考える。上述したような専用PUの優位性や機能の代替性などを総合的に見ると、Rolandから発表されているVG99やGP10のようにこれらを仮想的なギターのモデリングの技術に応用する方向へ進む方が優位性が保たれるからだ。仮想的なギターのモデリングとは、ストラトキャスターレスポールなどのボディ、PUの種類や配置と接続方法、アンプのマイキングなど、現物でしか発生できない音を仮想的に再現し、それを何通りもの形で実現しようというものである。これと専用PUとの組み合わせによりさらに再現の度合いも高まる。例えばストラトにP90のPUを乗せた音など、現実では難しいことを再現することは非常に先進的であり、よりプレイヤーの個性を生かすことができる楽器としての目的を大いに達成しているといえる。

 ギターシンセはハードウェアや音源の面でもまだ成熟しきっているとは残念ながら言えないが、特別な装備をギターに設置してでも目指したい音があると思わせるような優位性のあるものを開発されることがギターシンセ界の更なる発展につながるのではないかと考える。